常陸国風土記人

第1回『私と常陸国風土記』

久信田 喜一 氏(茨城地方史研究会副会長)

私は、茨城県人であることにこのうえない喜びと誇りを感じています。というのは、古代史研究を専門としている私にとって、茨城県は古代史の宝庫と言っても過言ではない地域だからです。その宝庫の扉を開く鍵のひとつが『常陸国風土記』です。

和銅6年(713)のいわゆる風土記撰進の詔(みことのり)によって日本全国で編纂されたはずの風土記ですが、この時に編纂された風土記が現存しているのは5か国しかなく、幸い常陸国はその5か国のうちの一つなのです。

私は『常陸国風土記』を中心に、常陸国各郡の地名・郷名の由来や現在比定地、その地域の奈良平安時代の状況を示す史料などを総合的に検討することによって、古代の茨城の歴史を再構築していこう試みを続けています。

『常陸国風土記』を題材にして最初に書いた論文が、昭和53年11月執筆の「常陸国風土記の説話と日本武尊伝説」(『歴史手帖』7巻2号、昭和54年刊)ですから、研究を始めてからもうすぐ40年になります。常陸国11郡のうち那賀郡から始まって久慈・多珂・茨城・信太・鹿嶋・行方・新治・筑波郡が終わり、残るは現在執筆中の河内郡と白壁(真壁)郡の2郡です。

私は茨城県立歴史館に15年半在職しました。現存する『常陸国風土記』の最良の写本は、歴史館所蔵の、文久2年(1862)に彰考館本を菅政友(かんまさすけ)が忠実に書写した菅政友本ですが、歴史館には、このほか万延元年(1860)に栗田寛が校訂した「古本常陸国風土記」や天保10年(1839)に西野宣明が校訂・出版した『訂正常陸国風土記』の版木が保管されています。

歴史館の研究員としてこれらの『常陸国風土記』写本等の研究・保存に携わることができたことは私のもうひとつの誇りです。『常陸国風土記』1300年記念事業が県内各地で活発に行われることによって一人でも多くの人々が『常陸国風土記』を身近に感じていただければいいなと思っています。

プロフィール

茨城大学人文学部卒業。元茨城県立歴史館首席研究員、茨城キリスト教大学講師、藝文学苑講師。専門は古代日本史。

主な著書に「風土記の考古学1 常陸国風土記の巻」(同成社、共著)、「八百万神をめぐる古代王権の謎」〔新人物文庫、共著〕などがある。