第2回 茨城県を大好きにさせる『常陸国風土記』
千葉 隆司 氏(かすみがうら市郷土資料館主任)
私は、歴史を知る、学ぶ意味は、その時代を生き抜いた先人の思いや経験から現代社会に類似する課題を克服したり、輝かしい未来を創造するためと考えています。こうした自論をもちつつ、茨城県の様々な時代の数多くの事象を勉強させていただいておりますが、毎度、茨城県を愛し、誇りに思い、活躍した先人の存在に感動させられています。そうした先人は、茨城県の魅力と実力を的確に理解していたからこそ、地域に生きる原動力を有し、歴史に名を残す存在となりました。
この茨城県の魅力と実力は、いかなるもので、現代に把握している方はどの程度いるでしょうか。文献史上、最も明確にそして親しみやすく茨城県の魅力と実力を紹介しているのが『常陸国風土記』です。茨城県に生まれ育つ私は、茨城県大好き県民の一人ですが、そうした茨城県のすばらしさを紹介するために『常陸国風土記』を使用しています。
『常陸国風土記』の冒頭にある「総記」には、「農業や養蚕に励めばたちどころに富を得られる」とか、「海の幸山の幸が豊富にあり、物産に事欠かない」などとあるように、著名な「常世国(理想郷)=常陸国」を記載しています。事実、古代遺跡や風土記以外の古代文献等をみるに常陸国の優位性は揺るぎないものであったことが分かります。『常陸国風土記』に描かれる常世思想は、現代にまで引き継がれており、夢物語ではありません。農林水産業をはじめ主たる我が国の重軽工業等の産物が茨城県において生産されている事実があり、我々の生活の中にはmade in茨城があふれているのです。産業の隆盛には、諸条件がありますが、安定した気候・風土、豊富な原材料や流通のための交通網の存在、そこに携わる人々や人間性など総合的な様々な要素が茨城県のパワーとなって、他地域からは魅力、当地からは実力として発信されているのです。いわゆるこれが茨城県の時代を越え、引き継がれる「正気」です。
今こそ茨城の「正気」を多くの県民が、そして国民が再認識し、茨城から日本を元気づける流れを創ることが大切と考えます。そのためにも茨城県のすばらしさの基本スタイルが記された『常陸国風土記』を一人でも多くの方が読んでいただければと思っています。風土記勅撰1300年の記念の年に『常陸国風土記』を学び、そこから茨城県、さらには日本の将来を考える国民が誕生するよう茨城県大好き県民の一人として、『常陸国風土記』1300年記念事業の成功のため努力していきたいと思います。
プロフィール
国士舘大学文学部卒業。かすみがうら市郷土資料館学芸員、筑波学院大学非常勤講師、藝文学苑講師。専門は日本考古学。
主な著書に「常陸国風土記にみる古墳文化の展開」(明治大学古代学研究所)、「常陸国茨城郡衙の一考察」(筑波学院大学)、「続古墳大辞典」(東京堂出版、共著)、「常陸の古墳群」(六一書房、共著)、「中世東国の内海世界」(高志書院、共著)など